上級講習会報告(3)実技編
上級講習会報告(3)実技編
成人片麻痺上級講習会報告 2009年8月
講師:紀伊克昌・真鍋清則
会場:森之宮病院
報告者:講習会受講生一同
文責:真鍋清則
実技編
本講習会の実技練習では実技の種類が多く、また練習の時間も長く、大変内容の濃いものであった。内容は主にCore Controlと上肢の選択運動を中心に指導された。
1. Kibler Test
Kibler Test はCore Stability(Core Control)を簡略的に評価できる方法である。例として左側の評価を示す。
- 右足部背屈により左側への重心移動を行う。
- 右膝のreleaseが出来たら股関節伸展位のまま膝関節屈曲し、左下肢の片脚立位を保つ。
- 右上肢をリラックスさせ左側足先に右手を伸ばし、手掌面を床につける。この際左膝関節は屈曲してもよい。
- この時頸部伸展で代償しないように頭を下げる。
- 頭を下げたまま体幹を起こしていき直立二足位に戻る。
- 反対側下肢の片脚立位も調べて、より不安定な支持脚を決め介入を行う。
2. Activation of Core Control in standing
- 両足の位置を設定する。肩峰-股関節-膝関節-足関節-踵が、一直線になるようにセットする。特に下肢が過 外転にならないように気をつける。
- 肩甲骨を下制・内転し手背と肘頭をキーポイントにして肘の選択運動(屈曲)を誘導する。上肢を挙上して肩関節屈曲90°に保つ。治療台を使うか壁に手掌をついて支持する。
- 下肢のアライメントを調節する。下腿三頭筋(内側腓腹筋と外側腓腹筋の活動)の状態を確認し、筋活動が乏しい場合は刺激して活性化する。
- ハムストリングスの遠位部の長さと近位部の筋活動を確認する。近位部ハムストリングスの筋活動が乏しい時は、坐骨結節に向かって求心性に刺激して筋収縮を活性化する。
- 胸郭から体幹の長さを保つ。
- 手掌あるいは指尖にて腹部のGraviceptorを刺激しながら、骨盤が前後傾せず、仙骨が垂直位を保つように全身の直線的伸展linear extensionを誘導する。キーポイントは腹部からの方がやりやすいが、骨盤や他の部位からでもよい。
- ヒラメ筋の長さを保ちながら、床に対して踵をゆっくりつけるようにコントロールする。 またスピードを変化させて前庭系に働きかける。
- Kibler testで不安定であった側の変化を観察する。安定した片脚支持が可能になっている。
3. facilitation of core control in step standing
- 実技2の①~③と同様である。
- 立位にて、足関節を背屈して重みを減らし(deweight)、膝が緩み反対側に重心を移す。
- 足部外縁(小指外転筋)から外反・背屈を誘導する。
- 選択的背屈を促通する。
- 骨盤が安定した状態で膝関節屈曲、股関節伸展位を保ちながら、下肢を後方に誘導する。
- つま先を安定させる。
- 踵骨の中間位を保ちつつ床に着ける(heel down)。
- つま先を安定させた状態で膝伸展を保ちつつ、足関節底屈でlinear extensionを促す。この時、アキレス腱は真っ直ぐに保つ。
- 小指外転筋をキーポイントに背屈を促しながらheel contactする。
4. Stop Standing
- Active Standing(Core Controlがきちんと働いている状態)を設定する。この時、常に体幹の抗重力活動を維持する。
- 骨盤から操作して荷重を踵に移す。キーポイントは殿筋でもよい。
- 骨盤を後傾しながら上前腸骨棘を上方に引き上げ、骨盤の選択的可動性を促す。足も細やかに動くことで、平衡を保つ。
- 膝関節の選択的屈曲を誘導する。この時、膝蓋骨を前方に動かすように協力を求めてもよい。
- 体幹を垂直位に保ちながらCore Controlを維持する。骨盤から股関節、膝関節、足関節の選択的な屈曲を誘導し、骨盤を動かして下げる(体幹は垂直位に保つ)。
- 坐骨を座面につける。
- 筋活動を維持した状態のまま、下肢の選択的な屈曲をコントロールしながら再びActive Standingに戻る。
5. Dynamic Core Stability in supine
- 下肢のDistractionにより、踵および前足部を長くして、直線的伸展を作る。
- 枕を外して、頭部を正中位へ修正し支える。頭頚部のDistractionにより、頚部を屈曲させずに肩からの距離を長くして、直線的伸展を作る。
- 背屈外がえしを通して足関節に対して圧迫する。
- 安定した膝立て位crooklyingに設定する。
- ハムストリングスのリアライメントと近位部の求心性収縮を促通する。
- 選択的な股関節伸展を促通する。
- 分節的な骨盤伸展を促通する。
- 身体近位部の活動を促す。
- 選択的な骨盤の傾斜を促通する。
- コアコントロールを維持し、左右への体重移動を通して交互活動を促通する。
- 両肩屈曲・外転位にて頭頚部・体幹のlinear extensionを維持したまま対称的に起き上がる。上方に伸びていく感覚を与える。
- 坐位から立位、片脚立位(股関節外転)に誘導する。
6. Dissociated movement of upper limb
- セラピストは患者の麻痺側に座り、麻痺側手をセラピストの近い方の膝にフィットさせる。十分に密着して、肘のコラプスは防いでおく。治療側体幹を、伸び上がるように誘導して(胸郭が開いて胸椎伸展)、長い手・上肢を作る。
- いきなり手に体重をかけさせないで、Core controlを高めて上肢に対する体幹のdissociated movementを引き出す。
- 麻痺側肩の内外旋を誘導し、上腕骨頭のアライメントを後方へ戻し、前胸部を開く。
- Postural controlとともに麻痺側手をセラピストの遠い方の膝に置く。
- セラピストの膝の上で手関節の背屈や母指CM関節の外転を促す。
- 徐々に肘のサポートを外し、尺骨から肘の伸展を促す。
- 麻痺側上肢へ荷重する。
- 手関節の背屈とともに麻痺側肩の外転を誘導する。
7. Selective movement of upper limb with trunk and scapula
- 非麻痺側上肢は体幹後方で支持させ、麻痺側上肢はセラピストの遠い方の大腿部にフィットさせる。
- 麻痺側肩の外旋を誘導し、上腕骨頭のアライメントを後方へ戻し、前胸部を開く。
- 体幹を抗重力伸展方向へ誘導し、長い麻痺側手・上肢をつくる。
- 両手を体幹後方へ置く。伸展のPostural controlを保ちながら、麻痺側肘の緩みと伸展を促し、腕橈骨筋の長さを維持する。Core controlの促通のために伸展していく。
- 肘の伸展で手にかかった体重がオフになる時に、麻痺側肩を外転方向へ誘導する。
- 麻痺側大胸筋と肩甲骨をキーポイントに、linear extensionする。
- 純粋に三角筋中部繊維の収縮を活性化する。三角筋の活動を触診しながら、母指を引き出すようにして長い手にする。
- 麻痺側上肢を水平内転させ、斜め45度前方挙上に誘導する。
- 麻痺側上肢を緩めるように屈曲方向へ誘導しつつ脇を閉め、肘を体幹に可能な限り近づける。
- 再び前側方へリーチを誘導する。
- 肘を屈曲し、麻痺側手を頭部へ誘導する。この時、手関節基部から頭部へ下ろし手関節を背屈させる。
- 次第に前方挙上の方向へのリーチも行う。肘の選択的屈曲で、手を頭に誘導する。
- その後で、実際に目標物を作り、少し前方へのリーチを行う。
8. Scapula setting and control of upper limb
- 端坐位で乳頭よりやや低めのテーブルを用意する。
- 麻痺側上肢を手背からのハンドリングによりテーブルに置く。
- 非麻痺側上肢も手背よりpostural controlを見ながら、口頭指示しないで誘導して手を置く。
- 背部から両肩甲骨の内転を促し肩甲骨セットscapula settingする。さらにセラピストの他方の手で前胸部と麻痺側肘を支え体幹の抗重力伸展活動を促す。
- 肘で患者の麻痺側上肢での運動を促す。
9. Control of head and upper limb
- セラピストは患者の前方へ位置して、両足部で患者の大腿を寄せるようにコントロールし、リファレンスフレームとする。
- 頭部を前方へ引き出しつつ上方へ誘導し、後頸部の長さを引き出しつつ、セラピストの足から骨盤の前傾を促すことで、体幹の須直直線伸展linear extensionを促す。
- 頸部が長くなったら、自由に動かせるように誘導する。重度な人には、額にも参照点を与える。
- 麻痺側肩に疼痛がある患者に対しては上腕骨頭を把持し動きを引き出す。
- 橈骨筋から麻痺側前腕の回内外を誘導し緊張を緩める。
- 麻痺側手を顔へ選択的に近づける。
- 後頭部へ麻痺側手を置くことで前胸部を開き、肩甲骨のstabilityを高める。
- 麻痺側上肢をセラピストの肩の上に誘導する。肩に痛みがあれば、Core controlを働かせて体幹を動かし軽減させていく
- 足部への荷重を促し、殿部をベッドより浮かせ立ち上がりにつなげる。
10. Selective movement of wrist and finger in standing
立位における両手支持での手関節と手指の選択運動
- 立位にて、骨盤の選択的可動性を引き出す。
- Core Controlを維持しながら、腰椎、胸椎を分節的に前方へ送り出し上肢が前方へ出るように(ぶら下がるように)誘導する。この時、頭部が前屈せず、全屈曲パターンにならない状態を保つ。
- 両手を前下方の治療台につくようにする。手関節トラブルを考えて体重はかけない。
- 腰部と腹部からの操作で、手関節の可動性を促す。
- 同側の下部肋骨弓を開くことにより母指の分離した伸展や、肋骨弓を閉じることによる小指の伸展、IP・MP関節の可動性や手掌支持・指先支持などをそれぞれコントロールする。
- Core Controlを維持しながら、分節的に体を起こす。
11. Hand Function
実技練習の前に、以下の様なご説明があった。
Grasp(把握)はサルでもできるが、Prehension(把持)はヒトの特徴であり、多くのシステムが集束して成り立っている。そしてPrehensionはモチベーションが大切であり、失敗の経験を与えずに成功の方向へ導いていくことが重要である。
- 麻痺側手背より前腕回内外を誘導しつつ、麻痺側手を台の上に乗せる。対象物の提示は、まだ行わない。
- 代償等の過剰反応が生じていないことを確認後、対象物(水の入った500mlペットボトル)を手のそばに置く。
- 腕橈骨筋より尺側の安定と母指の外転(preshape)を誘導し、母指と示指との距離を作る。
- 対象物をさらに手に近づける。モチベーションが高まることを大事に。
- まず4指から対象物に触れるよう誘導し、最後に母指をつける。把持の過程で母指が先行すると、手関節の安定に影響を与え、他の動きとのchunkingの原因になりやすい。
- 会話の中で、対象物の質に関する知覚を働かせる。
- 対象物の操作は、初めは遠位に伸展するように(ペットボトルの水を遠位へ注ぐように)、次に肘の選択的屈曲を誘導して、(ペットボトルの口を前方へ倒す方向へ)対象物をテーブルから離していく。この時、対象物を介して誘導する。
- 肘の選択運動をとりいれながら、対象物を置く。
- 台に肘を接地させ、対象物を振ることで、肘・手関節の選択運動を促す。
- 対象物を離す時は、対象物を回転させることで手指から離れていくように操作する。