上級講習会報告(3)講義編
上級講習会報告(3)講義編
成人片麻痺上級講習会報告 2009年8月
講師:紀伊克昌・真鍋清則
会場:森之宮病院
報告者:講習会受講生一同
文責:真鍋清則
上級講習会『姿勢制御と選択運動』の報告
上級講習会参加者一同
講義編
1. はじめに
2009年夏に行なわれた上級講習会『姿勢制御と選択運動』について報告する。
この報告は講習会参加者全員でまとめた内容を、小室幸芳(森之宮病院)、水本圭祐(アシストジャパンディサービスセンター3号館)、馬場隆(済生会京都府病院)が最終的に要約したものである。
- 期間 2009年8月31日(月)~9月4日(金)
- 会場 森之宮病院
- テーマ 姿勢制御と選択運動
- 参加者 25名(理学療法士15名、作業療法士9名、言語聴覚士1名)
- コースリーダー 紀伊克昌先生(IBITAシニアインストラクター)
- アシスタント 真鍋清則先生(IBITA基礎講習会インストラクター)
講習会プログラムは図1に示す
2. ボバース概念Bobath conceptにおける姿勢制御の捉え方、及び発展について
姿勢制御postural controlをKarel Bobathは正常姿勢反射機構Normal Postural Reflex Mechanism、すなわち姿勢制御の背景として姿勢反射を考えた。現在は中枢姿勢制御機構Central Postural Control Mechanismsを基盤した反応と考え、さらにフィードフォワード feedforwardによる先行随伴性姿勢調節Anticipatory Postural Adjustmentsとして捉えるようになっている。
ボバース概念も発展し、今ではBerta&Karel Bobathの考えをCore Bobathとしながら筋力増強や、神経心理、教育、トレッドミル、ロボット、外科治療、レクリエーションスポーツなどにまで拡がりをみせている(図2)。具体的な治療としては以前のように階層的に積み上げるのではなく、目標や課題を通して行動そのものからも治療を展開していくのである。
次に、Massionの図3を用いながら姿勢制御について説明する。前庭覚、視覚、体性感覚、筋骨格系など多重感覚入力によって身体図式がつくられ、姿勢制御は姿勢指向性postural orientationと安定性の要素から成る。また、身体図式は姿勢の参照枠から発し、嗅覚や重力感覚graviceptorなど知覚情報とも統合される。
脳卒中患者では、非麻痺側の代償使用や麻痺側の不使用により身体図式(脳マップ)が不都合な変容を起こし(集合化:chunking)、セラピィで本来の身体図式に修正しなければならない。この修正を分画dechunkingといいその時、参照枠reference frameが修正への手がかりとなる。
3. 姿勢・運動コントロール
図4は、2004年にSchepensとDrewによって書かれた、「Independent and Convergent Signals From the Pontomedullary Reticular Formation Contribute to the Control of Posture and Movement During Reaching in the Cat」という文献の図を改変したものである。猫の網様体ニューロンの中で観察された駆動させる発生源と、信号下降投射を例証している概要図である。またこの図は、姿勢と運動のコーディネートに起因する理論上の信号を例証するように設計された前の図(SchepensとDrew 2003a:Massion 1992のモデルから独創的に引き出されたもの)から翻案された。
信号を時間で計測することに成功した研究で、SchepensはMassion 1992の研究をpずっと追試験していた。例えば右手でペットボトルにリーチし左手で蓋を開けて飲む場合、リーチする100ms前には皮質網様体脊髄路の働きにて左同側体幹の姿勢筋緊張postural toneが高まり、姿勢の安定化がおこる。「?」はまだ解明されてないが、可能性が多々あるという意味である。4野であれば、「喉が渇いた」という信号が視床下部から送られてくる。
図5は2004年にFeltenとJozefowiczによって書かれた、「Netter’s Atlas of Human Neuroscience」からの引用図である。Feltenは皮質網様体脊髄系と前庭脊髄系は、一側下肢起立で強化される姿勢制御促通に関与し、脊髄では同じユニットが使われると述べている。解剖学的には内側網様体脊髄路と外側前庭脊髄路は脊髄前索のほぼ同じエリアを通過しオーバーラップしている。つまり機能的には前庭脊髄路が網様体脊髄路を補っている形となる。APAsは腹内側系の網様体脊髄路や前庭脊髄路が深く関与しており、皮質脊髄路よりも速い伝導速度で体幹と四肢近位筋の筋緊張を適切に調節している。特に橋-延髄網様体が姿勢調整を生み出す役割を果たしている。
図6は、2003年にSchepensとDrewによって書かれた、「Strategies for the Integration of Posture and Movement During Reaching in the Cat」からの引用図の改変である。猫のリーチ運動時に組織化された姿勢と運動を例証している信号経路の概要図である(Massion 1992から翻案された)。
Anticipatory Postural Adjustments(APAs)は、予測的姿勢調整・先行随伴性姿勢調整・予測的姿勢調節・先行随伴性姿勢調節等と日本語訳は様々であり、2つに大別される。一つ目は運動に先行する予測的姿勢調節で、Preceding APAs(pAPAs)と呼ばれており、PrecedingにはPreparatoryの意味も含まれている。運動開始100 msec前に先行して生じ、Feedforward姿勢制御で行われる。二つ目は運動に伴う予測的姿勢調節で、Accompanying APAs(aAPAs)と呼ばれている。運動中も身体を更に安定させる姿勢制御である。
図7は、2006年にSchepensとDrewによって書かれた、「Descending Signals From The Pontomedullary Reticular Formation Are Bilateral, Asymmetric, and Gated During Reaching Movement in the Cat」からの引用図で、リーチ時に網様体脊髄路系が姿勢と運動を相互的に制御することに寄与している経路の概要図である。
図8も上記と同じ文献からの引用図で、網様体からの両側性で非対称性な下降性信号の性質を協調した概要図である。
図9は、1994年にJean Massionによって書かれた、「Postural control system」からの引用図である。この概要図は、姿勢制御の中枢器官に関わる主な構成要素を要約している。
この図は姿勢コントロールの中枢の組織化を含む主要な構成要素を要約している。
これらには2つの参考価値があり、一つは身体分節のオリエンテーションに関係しており、もう一つは全身の安定性(平衡制御)に関係している。これらの参考価値と内乱と外乱に抗した維持は、身体図式つまり身体の内的表像に基づいている。これはいくつかの構成要素を含んでいる、すなわち身体の幾何学的配列と動力学、垂直の表像と参照枠である。更に姿勢ネットワークは姿勢課題の実行に寄与している。多重感覚入力は身体図式の増強のために使われる。これらの入力はまた指示された指向性・安定性と実際の姿勢の間の不適当な組み合わせを評価するためのエラー検出センサーとして活動する。エラーメッセージがある中で姿勢反応は、随意運動に関連した予測的姿勢調整と同様に、一つまたは数分節上で姿勢ネットワークを通して行使される。姿勢の反応の遂行あるいは予測は、局所的フィードバック上で制御されている。
4. 姿勢と運動の協調性
2004年にJean Massion、Alexei Alexandrov、Alexander Frolovによって書かれた、「Why and how are Posture and movement coordinated?」という文献によると、以下のように述べられている。
姿勢には2つの主要機能がある。
抗重力コントロール(引力に逆らう身体分節は集合的で、総合的な構成の蓄積を必要とする)と知覚と動作とのインターフェース(すなわち、外界と身体の間の相関を制御する)である。
抗重力コントロール:2つの関連過程が抗重力コントロールを実行する。最初に、連鎖kinetic chainの様々な分節である足から頭部までの重力として起こる床反力に対して、重力の重さを支えなければならない。2番目の過程は平衡制御である。静的な条件下で圧力中心・重心(CG)の投射は支持面(すなわち、環境との支持接触)の中にとどまらなければならないが平衡制御によってそれを確実にするのである。知覚と動作の間で連結している。
抗重力機能:姿勢筋緊張(すなわち、抗重力筋の筋電図活動のレベル)は、この需要を満たす主要な手段である。
姿勢コントロールとバランスコントロール:随意運動の実行の間、同じタスクの多くの局面が同時に調整されて実行される。注視オリエンテーション(目標に向かう)は、目と頭部運動の並列的なコントロールからなされる(Bizzi 他、1997)。
姿勢と四肢運動の間の協調は、日常生活で見られる例の一つである。しばしば同時に、2つの目標を達成しなければならない。一方では、目標に向かう運動の正確な実行が必要である、もう一方では平衡維持と適切な姿勢、または姿勢セットがなされている。同じく、移動歩行の算出は、姿勢機能(重力に対する身体分節の支持、身体中心CMの前進加速)と移動のリズミカルな運動(Mori、1989;Mori他、1999)の間の協調を必要とする。自らの参照枠を外界に適合するために、体幹あるいは頭部(自己中心システムにおける参照)のオリエンテーションが、垂直重力軸(外界への参照)に関して算定される。この算出は主として感覚器のセットを基に成り立っている。それは耳石および重量覚(足底および骨盤、更に筋、ゴルジ腱器官)であり、これらは重力軸のモニターになっている。知覚と動作との抗重力コントロールとインターフェースは密接に運動実行に関連する。例えば下肢を前方に上げる時、平衡は支持側下肢にCGを移動させることによって維持される。これは抗重力コントロールの形態である。
中枢器官と姿勢コントロール:全ての生き物には、それ自身の遺伝子の世襲財産がある(それは胎児発生、誕生および個体発生の間、生存に重要な基本的な行動を支援する中枢と反射的な組織を提供する)。人間は腹内側系と背外側系を世襲している。
予測的姿勢調整
平衡維持は正確な遂行のための必要条件である。目標に向かって運動の軌道を計画するための参照値を提供するので重力に関して身体分節の定位を維持することは必要不可欠である。更に地面からの動的身体分節までの運動学的な支持機能は運動実行に関する動的条件として保持しなければならない。姿勢と運動の間の協調性は、主要問題に対応しなければならない。予測という言葉には、やがて来る動揺に対する予期を含んでいる。それは繰り返された経験と学習の結果、中枢神経回路網が適応していることを暗示している。記憶されたモデルは、中枢神経系CNSで発達してタスク実行中に活用される。そのようなモデルは外界、身体の生体力学的な特性およびそれらの相互作用を内包する。記憶された表現(またはモデル)のこの考えは、最初に運動学習の分析に基づいて全ての体性感覚系のためにBernsteinによって提案された。
5. 姿勢の遺伝モデル(Genetic model of posture)
3つの主な機能が姿勢の遺伝モデルで特定される
- 重力に関する身体セグメントのオリエンテーション
- 重力に対するそれらの支持性
- および運動進行中での姿勢適合
これらは世襲モデルである。
重力に関する身体オリエンテーション(Body orientation with respect to gravity)について:哺乳動物では、頭、体幹、および下肢の部分に分節され、耳石と視覚は重力に関して頭部のオリエンテーションをコントロールするために感覚入力を提供する。つまり分節性がある。
Rademaker (1931)によって説明された立ち直り反射における調査はこの主張を例証しておりBobath&Bobathも正常発達説明に引用した。ただし、“立ち直り反応”とした(図11)。
姿勢の遺伝モデルは、姿勢反射階層性理論を、生み出して、Sherington, Magnus, Shaltenbrand、時実らの研究論文になった。(脊髄姿勢反射、脳幹姿勢反射、中脳姿勢反射が、すべて大脳皮質レベルの平衡反応に統合されるという旧式説明である。)
今日における姿勢の遺伝モデルは、固有表現型(Pheno type pattern)の、ベースとして分析される。
あるいは脳にダメージを受けた人の潜在代償能力として、評価される。
時実は投球動作はATNRと言っていたが、現在では言われなくなった。脳卒中後遺症により、平衡維持ができなくなると抗重力筋の弱化が起こる。潜在的に代償能力を発揮すると、全体が屈曲し非麻痺側へ偏るが立ったり、歩けたりするのは、遺伝的なものを使う。半屈曲位で立つということは猿人類に相当する。
遺伝モデルの限界 Limitations of the genetic model:姿勢の遺伝モデル(コメント:階層性のモデル)が、姿勢の中枢器官とコントロールの唯一の基礎であるという考えに対して、いくつか挑戦的な意見がある。
1つは姿勢反応には柔軟性があるということともう1つは予期的な姿勢調整である。後者は姿勢と運動間のコーディネートに関わる。
(see also F. Mori et al ., S. Mori et al ., and Takakusaki et al., Chapters 19, 33 and 23 of this volume)
姿勢反応の柔軟性 Flexibility of postural reactions:現在では、外部の外乱によって引き起こされた姿勢反応は、著しく柔軟性があることが知られている。(for review, Macpherson, 1991; Horak and Macpherson, 1996)。例えば、立位でバランス外乱が起こる時、下肢筋は脊髄レベルで修正に関わっている。際立った柔軟性が固有反射組織の特徴である。(Forssberg et al., 1975; Stuart, 2002)。外乱が加わると生ずる股関節方略hip strategyもしくは足関節方略ankle strategyは固有受容反射活動なのである。人の立位バランスは、抗重力遺伝的能力踏襲(コメント:進化も含まれる)、身体塊分節性(segment of mass)、運動学的連鎖kinetic chain、身体図式の参照枠、支持接触面知覚(体性感覚) 環境情報収集と情報処理能力が関係している。個性が出てくる立位をみると二足立位のバランスの中に上記の機能が含まれているのである。
そして、タスク前、タスク遂行中、タスク終了時における“平衡の維持”が必要である。“平衡維持”は、静止staticを意味するのではなく“逆動力学的運動(Direct and inverse dynamics movement)”と、“情報処理運動eigenmovement”が起こっている。
逆動力学的モデル:姿勢と運動コントロールにおける逆動力学的モデルとは、CNSが学習を使用して運動系のダイナミック内部モデルを創り出しているという仮説に基づいている。つまり、既知の運動(身体運動、関節角度、変位、外力)を与えて、筋への神経刺激や筋力、関節モーメントを推定して調べる計算からなる。実際に計測されたデータと推定した神経制御系のモデルからなるデータを比較することで、人の運動制御系への考察を導く新しい方法である。この手法を用いてロボット工学の分野では研究が進み、ヒトの筋骨格モデルの運動を制御する体性感覚情報(神経制御系)の働きを確かめる(実際にコンピューター上でモデルを動かすことができる)段階に至っている。
The eigenmovement approach:The eigenmovement approachとは、逆動力学モデルを利用した計算から、人の運動出力や神経系の働きを推定するアプローチである。人体などの多くの体節をコントロールする際は、体節間の力学的な相互作用に最も難しい問題がある。しかし、人体のような「マルチジョイント」システムにおいて、eigenmovement approachを使用することによって、一連の動的に独立した多関節の動きを説明することができる。
多関節動力学的連鎖による「平衡維持」は身体各部塊(Segment of mass)のトルク総和を調整していることから、小脳が大きな役割を果たしていると推測された。また、人における「平衡維持」パターンの固有性は小脳発育の個人差から創造されるといえた。
Jean Massion(2004)は自らの論文で、姿勢と運動制御の統合略図をまとめた(図12)。それによると、強調すべき事は、姿勢の反応と予期的調整との相互作用を統合する制御システムの必要性があるということだ。運動の実行に際しては、姿勢の外乱を引き起こすことになり、姿勢は姿勢の反応によって補われることになる。しかし、これには調整経路を通るトランスミッションのために外乱を検出する時間差から遅れが生じている。対照的に、予測的姿勢調整はあらかじめ、用意しているために外乱を修正することができる。適応型の神経ネットワーク(発達型の学習を要する)は、この予期的な過程を制御している。
実技練習においても、立位姿勢をとっている受講生同士で背部を把持することから、「平衡を維持する」ための「細かなゆれ(カイネティックチェーン)」を確かめることができ、講義で習ったeigenmovementを実感することができた。
6. Human Balance
異なったシステムの統合は運動パターン、姿勢の制御戦略の計画立案と実行を可能にし、平衡を維持するために力学的外乱への予測と対応へ、すばやく効率的に起こり、それは個々の目標や環境背景によって、微妙な差が出てくる。
バランスとは自律的歩行、上肢のリーチ、食事動作、衣服着脱、整容動作などの日常生活活動ばかりでなく、楽器演奏、描画などの芸術活動、そしてあらゆるスポーツ活動における機能の絶対必要条件のバックグランドである。これらの機能活動中は、常に脊髄と脊髄上位中枢との緊密な相互作用による相反神経支配が成立している。
バランスにおける姿勢適応は、予測あるいは準備の感覚フィードバック、フィードフォワードの結果としておこる。バランスは高度に協調された選択的な自律姿勢調整であるため、バランスにおける筋肉活動は随意化できない。
バランスは、人間特有のもので動物実験で研究出来ないため、正常児発達観察から解釈している。5~6歳まで二足直立位、あるいは一側片足起立における平衡反応の発達は続く。生活環境や生活様式、スポーツ経験などの違いから個体差が大きくなる。中枢神経疾患患者においては、乳幼児の時に練習したバランス熟練化の過程を忘れてしまっているため、転倒を怖がり過ぎる傾向がある。
7. Core stability, Core control
真鍋先生の講義
ヒトの日常生活活動では、移動をはじめ、整容、更衣等でも直立二足で行う活動が多い。日常生活全般では直立二足の立位はとても重要な機能である。しかし私たちはこれら機能改善のためには坐位で治療することが多い。もし歩行ができる患者であれは、立位での日常生活活動に挑戦しなければならない。
姿勢・運動制御:姿勢制御・運動制御は個体、環境、課題の相互作用によって発現する。また各々のシステムはサブシステムが存在し、運動はそれらによって組織化される。またMassionの図の説明では、姿勢制御は、postural orientationとpostural stabilityの2つにわけられ、身体図式を形成する要因となっている。また多重感覚入力の中の重量覚には2種類あり第一の重量覚は前庭覚であり、第二の重量覚は腹腔内にあり、腹腔膜や内臓の自由神経終末である。このような情報をもとにして身体図式は形成されていく。
身体図式body scheme:身体のある部位の運動出力と、そこからの感覚入力は常に一体化されており、頭の中で同じ部位に作用するようにmappingされている 。これが選択的になればなるほど、身体図式は良くなっていく。
姿勢・運動制御システム:主に腹内側運動系と背外側運動系の2つある。腹内側運動系は同側支配が優勢であり、体幹の近位筋を支配しており、姿勢制御に大きく関係している。脊髄のいくつかの領域に拡散的に多分節支配している。背外側運動系は対側支配が優勢であり四肢の遠位筋を支配している。多くの感覚情報を取り入れ、収束的にごく少量の分節を支配する。
先行随伴性(予測的)姿勢調節Anticipatory Postural Adjustments:スポーツの研究に用いられており、整形外科や脳科学の分野で用いられている。APAsにはPreparatory APAsとAccompany APAsがある。随意運動の時に予測される妨害に対して備えるフィードフォーワードの姿勢調節である。これらは経験依存的であり学習されるものであり、フィードバックによって修正される。
皮質網様体脊髄路:橋や延髄から両側性に支配しているが対側優位である。
前庭脊髄路:皮質からの直接的な支配は受けていない。大きく外側前庭脊髄路と内側前庭脊髄路があり、より体の中心に近いところの脊髄を支配している。網様体脊髄路と前庭脊髄路の支配はオーバーラップしており、前庭脊髄路は網様体脊髄路の機能を補完する役割がある。
皮質脊髄路:皮質脊髄路は4野だけでなく、感覚野(3.2.1野)、運動前野(6野)、頭頂連合野(5.7野)から出力する。運動野と運動前野で60%を、感覚野とその他で40%を支配している。
皮質赤核脊髄路:赤核で交叉をして、外側網様体核に入力している。外側皮質脊髄路と赤核脊髄路は支配領域がオーバーラップしている。
Core stability:Kiblerによって定義された。主に下部体幹の安定性のことをいい、腰腹部を1つのboxと考えた。
Core stability muscles:上部を横隔膜、下部を骨盤底筋群、後部は多裂筋、前面は腹筋群で構成している。腹筋群が活動すると、脊柱の安定性に対して腹腔内圧が高められ、よりcore stabilityが高まる。また骨盤が中間位で股関節が伸展しているとき、Core stabilityはきちんと機能して体幹を抗重力伸展させることができる。特に立位の時は骨盤の傾きは重要であり、股関節が伸展していないとlinear Extentionは得られない。
Core musclesとAPAsの関係:運動が開始するのに先行して、core muscleである腹筋群が活動している。腹横筋・多裂筋はpAPAsとして内外腹斜筋・腹直筋はaAPAsとしてとして機能している。
Scapula setting:肩甲骨の位置は、上角は第2胸椎棘突起、下角は第7胸椎棘突起の位置である。また肩甲骨と前額面の角度は30~45度、鎖骨との角度は60度、垂直線に対して肩甲骨の角度は10~20度前傾位、内側縁が10~20度である。脳卒中患者の場合は前傾が強まり下角はより内転あるいは外転している。また鎖骨との角度が少なくなる。
Core control:Core stabilityだけが重要なわけではない。上部体幹の胸郭と肩甲骨の可動性と安定性や、下部体幹の骨盤と股関節の抗重力伸展も重要である。これらを含めてCore stabilityと関連付けて考えていく必要がある。その中でのcontrolのことをCore controlという。
紀伊先生の講義
core stability:バランスにおいて、先行的姿勢調整における筋活動を記録しようとする研究から、core stabilityは登場した。Core stabilityという用語はピラティスなどの民間療法や、運動・競技の中で練習内容などに用いられているが、神経科学的にはまだ詳しく研究されておらずevidenceはない。
Core stability & Balance:HodgesはMassionの研究を参照して、Core stability & Balanceを以下のように提唱した。「多関節運動連鎖時の姿勢のコントロールが、体幹と下肢の小さい振幅運動を取り入れる神経筋制御戦略によって、維持される「安定性」と「可動性」の組み合わせとして構成されていることを提案したい。」
Core stability muscles:Core stabilityを形成する筋は、腹筋群、脊柱周囲筋群、殿筋群、横隔膜、骨盤底筋群、股関節周囲筋群で、腹部を中心にboxのように位置している。その中の一つである多裂筋は、短い筋にもかかわらずヒトの筋の中で最も筋紡錘が豊富である。これはヒトの二足直立を進化させ、ヒトが立位で微妙にバランスを調整し、上方への伸展を作り出すことに貢献している。また骨盤体幹だけではなく、ハムストリングスの近位部、特に大殿筋、中殿筋といった股関節周囲筋は一側動的連鎖活動時にとても重要であり、活性化させていかなければならない。
Core stability musclesの個体発生的な側面:胎児期に初めにできるのは神経管であり、第3~4週で後脳部から尾の方向へ42対の体節ができ始める。筋は筋芽・筋原細胞がバラバラと分散してでき始め、神経筋接合によってFetal Myoblastという胎児を構成する筋にかわる。これは誕生後に地球環境下で機能化するようになる。これをSecondary Muscle Fiberといい、胎児のときに練習的に体幹の安定を行うのに使われている。その後これはAdult Myoblastとなり、筋線維が増加したり、修復できるようになる。Core stability musclesである腹直筋と腹斜筋は、第6週胚子には筋板が発生する。この時は哺乳類と同じく短冊状になっており横断する形をしている。しかし下肢が存在してくる第8週胚子ごろには、下肢が安定して伸展する運動が出始めてくると、横並びであった腹筋は縦並びに変化していく。これは細胞一つ一つに存在する抗重力的な二足直立で生活するヒトの遺伝子の指令によるもので、抗重力下で使われる予定筋の腹筋となる。筋には世代があり、余分ものはアポトーシスによって退化していく。筋には世代がある。胎児期はfetal、新生児期はneonatal、成人ではpostnatalと発達していく。しかしpostnatalの筋は、支配神経が断裂したり機能低下に陥ると筋組織レベルが退行してしまう。これが結果的に筋線維の減少二委縮、消滅、硬化やweaknessとなる。ヒトは二足直立に進化し、生活する全てのメカニズムを二足直立で行うように筋を使っている。もし二足直立であることを休み神経を使わないと、筋は退行していき、機能も退行してしまう。臨床ではこのようなことを防ぐために、あまり遅くならない時期にセラピーを始め、適切に援助していかなければならない。運動パターンには、我々の進化を内在している遺伝子のプログラムで決まるgenetic pattern(遺伝的パターン)があり、その後、環境要因によってPhenotype pattern(固有表現パターン)となる。脳損傷患者の動作パターンは受傷前のPhenotype pattern(固有表現パターン)に基づいている。また患者に潜在能力を見ていくときにLocomotor Region(駆動領域)を見ていかなければならない。これにはPattern Generator(パターン発生器)、Pattern Osillater(交互パターン活性器)、Pattern Accelerator(パターン加速器)、Pattern Radiator(パターン減却器)、Pattern Modulator(パターン調整器)などがある。これらは潜在能力であり、活動を起こすものであるため患者のどこかに潜在的に存在している。セラピーではこれらを見つけ出し、表に出していかなければならない。
8. 選択運動
臨床的に、安定性に基づく適切な筋活動で一つの関節単位かセグメントの分離した、選ばれた運動を意味するとされる。
選択運動には次の三つの課題・学習がある
Dissociated movements:四肢に対する体幹の可動性と安定性を改善するための運動を課題とする。Dissociated movementsの背景には、体幹コントロール、頭部コントロールの神経性・非神経性の良好な状態が必須条件である。Mass patternの解離、コアスタビリティの活性化、身体図式における中心・正中位の知覚、偏移の知覚、垂直軸・水平軸の認知が必要とされる。覚醒状態・意識レベルの影響があり、上肢と下肢の運動に先行する体幹の同側性、対側性、両側性活動が近位部周囲筋群へ波及していく。
Isolated movements:機能的課題に向かって、上肢、下肢の複合的構成要素を改善するための運動学習である。上肢または下肢の滞空から、中間関節と遠位部運動を多様に組み合わせる。すべての筋肉の変位を修正する(リアライメント)。セミオートマチック、セミオートボランタリィのどちらかで適度な意識参加で、方向性、スピード、タイミングを学習していく。
Independent movements:セラピスト操作を離れて学習した運動を、自発的に再現できるように誘導する段階である。セラピストの手を離れるが、あくまでもコントロールを課題にする。先行する姿勢調整、遂行中の姿勢制御、運動の方向性、スピード、タイミングの正確さを追及する。部分課題構成要素の即時改善を積み重ね、全体課題(機能目標)に到達する。
内部モデル制御と学習モデル:小脳皮質は層状の均一な構造をしており、学習が可能な神経回路の集まりであると考えられ、小脳が学習機能をもつことが知られている。
運動中の学習によって小脳は、筋骨格系への入出力関係、つまり運動指令とその結果生じる軌道との関係の情報を蓄える。小脳内に保持される運動指令―筋骨格系の情報を内部モデルという。運動指令から軌道を出力する神経回路を順モデル、逆に軌道に見合った運動指令を出力する神経回路を逆モデルと呼ぶ。
運動学習とエングラム:Bernsteinは、運動全体の抽象的な形での記憶が脳に蓄えられていると考え、これをエングラムと呼んだ。Kottkeは多くの筋群への一連の運動指令パターンと定義した。運動学習は、movement(動き)procedure(手続き)の学習に分けられる。Movementの学習は小脳を中心に、大脳皮質と小脳との相互作用で行われる。小脳において目標軌道が各筋群への運動指令に変換されるという点で、エングラムは、小脳に蓄えられていると考えることができる。
運動学習に影響を及ぼす、情動・モチベーション:情動、モチベーションに関与する帯状回の活動は、自発性の運動発現にも重要である。基底核には辺縁系からの強い入力があり、これが行動の評価(価値判断)と行動の学習に役立っている(といわれている)。また、意欲を高めるシステムとして前頭葉と辺縁系を働かせる中脳皮質ドーパミン系がある。腹側被蓋野の神経細胞が働くと、ドーパミンが分泌されて、前頭葉と側坐核の働きを高める。側坐核は快感が起こる中枢とされ、これがモチベーションの向上に一役かっており、運動発現に影響を及ぼしている。
覚醒度を推測する4つのAと3つのC
覚醒度を推測するために紀伊先生が用いられている。
- Arousal 脳幹レベルで目覚めている
- Awareness 内部環境の変化に気づく
- Alert 学習への気構え
- Attention 外部環境のイベントに注目
- Conscious 大脳皮質レベルで意識化
- Cognition 論理的理解および認識
- Concentration 課題遂行への集中