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Rehabilitation of Gait Speed After Stroke: A Critical Review of Intervention Approaches
脳卒中後の歩行速度に対するリハビリテーション:介入アプローチの批評
2. Rehabilitation of Gait Speed After Stroke: A Critical Review of Intervention Approaches
Ruth Dickstein
Neurorehabil Neural Repair. 2008 Nov-Dec;22(6):649-60.
Ruth Dickstein
目的:
歩行速度は脳卒中後の歩行パフォーマンスの主要な指標であるが、歩行速度を向上させる最適な治療方法のコンセンサスは得られていない。最も広く受け入れられている、歩行速度に対する治療効果の判断基準は、歩行速度が向上することである。
しかし、実際の歩行速度は、リハビリテーション終了時においても、機能的なコミュニティーでの移動能力(functional community ambulation)のために重要であろう。
今回の再調査は、リハビリテーション終了時の歩行速度に関して、一般の(下肢強化、タスクオリエンテッドエクセサイズ、運動イメージ訓練、など)治療介入の有効性を調べることにある。
方法:
歩行速度の情報は、1990年以降の研究から検索した文献をシステマティックレビューとメタ分析したもの、臨床治療ガイドラインが推薦する研究から得た。同様に近年(2005年以降)の文献で、上記の論文、研究を含まないが歩行速度を結果としているものも合わせて調査した。最終的な歩行速度は、リハビリテーション終了時に記録されている速度と機能的なコミュニティーウォーキング(functional community walking)※脚注1能力の結果から推察することで算出した。
結果:
一般的に知られている様々な治療方法に関して、最終歩行速度の類似した結果が認められた(治療法による違いは認めなかった:訳者注釈)。治療の成果は、歩行速度の結果が類似していたのと同様に、概して患者の機能的なコミュニティーウォーキング能力をグレードアップすることには不十分だった。
考察:
脳卒中後の歩行リハビリテーションには様々な治療法が存在する。それらの、有効性、実施方法や実施期間、施行した時間や労力は異なるが、報告された結果はほとんど差がなかった。したがって、適切な治療方法の選び方は実際的な介入によって導き出されるだろう。単純な方法や従来の運動療法もトレッドミルやロボティックなど、より複雑な治療戦略と少なくとも同じくらいに有効である。
コメント:
今回の包括的な再調査は、様々な運動療法によって0.04~0.20m/秒の幅で歩行速度が改善したことを示している。
これら、引用された研究の結果には有意差が認められた。しかしながら、ほとんどの研究で治療前後の歩行速度の測定結果が狭い範囲の歩行能力に「制限」※脚注2されていた。これらの研究結果から、私たちは、機能的な変化を達成するために挑戦し続ける姿勢を読み取ることが出来る。
コミュニティーウォーキングに関する必要条件のエビデンスが蓄積されていることは間違いない。
- ペリー(Perry)ら(1995)の歩行速度分類。0.4m/秒未満 屋内歩行。0.4~0.8m/秒ある程度制限された屋外歩行。0.8m/秒以上 屋外歩行自立。
- シュミット(Schmidt)ら(2007)の研究「速度に基づく歩行分類は有意義である」
- パターソン(Patterson)ら(2007)「脳卒中後の歩行機能を決定づけるもの:障害の重症度による」は「脳卒中後の短距離歩行はバランス、循環器系の強度、麻痺側下肢の支持性が関与するが、長距離歩行は障害の重症度に加え、ゆっくり歩く場合にはよりバランスが大きな役割を占め、早く歩く場合には循環器系の強度がより大きな役割を占める」と結論づけている。
- ミロット(milot)ら(2008,2007,2006)とナドー(Nadeau)ら(1999)は、高いレベルの努力を必要とする麻痺足の背屈筋の弱さが、維持期の片麻痺患者の歩行速度を制限している根本的な原因であると示している。
Dicksteinは「地域で生活している片麻痺患者が多いことを考えると、社会の中で歩行パフォーマンスを長期的にメンテナンスすることを促すという方向へ研究する対象を向け直す方が有益ではないだろうか」とまとめている。
脚注1:コミュニティーウォーキング
患者さんの生活空間、自分の地域での(家の中や街中、社会参加を含む)歩行能力という広い概念で使われている。適当な訳語が見当たらないためカタカナ表記とした。
脚注2:『制限』
本論文には、歩行速度の違いによる予後予測が述べられている。
- 0.15 m/秒が家庭復帰できるか長期の介護が必要なレベルかの分かれ目になる。
- 平均0.16~0.25 m/秒と0.26~0.42 m/秒では、制限された歩行可能群と無制限に屋内歩行が可能な群に一致する。
- 0.43~0.79 m/秒では制限されたコミュニティー(屋外)歩行が、0.80~1.20 m/秒では無制限で遅いコミュニティー(屋外)歩行が可能である、としている。