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ヒトの脊髄における運動制御と脊髄機能の回復
著者 Kern, H.;McKay, W. B.;Dimitrijevic, M. M.;Dimitrijevic, M. R.
要約:
脊髄は、中枢神経系として、そして、機能的な構成要素として、数世紀に渡って科学者の好奇心を引きつけてきた。脊髄の神経生理学的知識に関しては、目覚ましい進歩を遂げてきたが、脊髄の形態に関する知識は変わらなかった。脊髄は、灰白質内の運動ニューロンが介在ニューロンを通じて接続し、情報交換を行う中枢神経系であり、細長い、円筒状の形状である。さらに、運動ニューロン間で、局在性、そして多分節の情報交換も行われ、固有脊髄システムの長い有髄軸索から構成される白質を通して伝達する。脳から生じ、脊髄で終わる運動経路は、1.大脳皮質からシステム、2.脳幹からのシステム、3.「感度調整(gain-setting)」システムの少なくとも3つのシステムがある。
1980年に、研究者たちは、脊髄介在ニューロン群が2つのサブグループ(脊髄反射活動と、もう一つは脊髄上位と脊髄の相互作用)には分類できないことを証明し、脊髄介在ニューロン群は、運動を調和するために多くの機能を統合する構造的に動的な存在であるとした。個々の脊髄介在ニューロンは、脊髄の大部分に渡って連絡しており、種々の運動ニューロンと広範囲にわたる関係を保っている。短・長軸索脊髄介在ニューロンを通して、いくつかの屈筋と伸筋の運動核に出される刺激と抑制の程度が調整される。一方、脳は、脊髄の運動出力を直接的にコントロールするだけではなく、運動が出現する前に予測(計画)し、運動を上手に調整することにも関与している。脊髄の運動活動は、脳によって安定した運動を実行するように最終調整される。
筆者は、ヒトの脊髄損傷(SCI)における運動制御の臨床的・神経生理学的特徴を、2つの障害モデル(脳と脳
幹構造から脊髄が完全分離したモデル、及び部分的に分離したモデル)に基づいて述べている。
完全SCIモデル:
表面電極による筋電図検査法を用い、多数の完全SCI患者の伸張反射と皮膚-筋反射を計測した系統的研究では、3つの異なる神経回路の存在を示した。それは、1. 単、乏シナプス伸張反射、あるいは多シナプス反射で複数の介在ニューロンを持つ反射弓、2. 固有脊髄の介在ニューロンシステムと脊髄白質ニューロンの軸索、3. 脊髄灰白質の短軸索介在ニューロンと灰白質内の高密度のニューロン接続、である。これら全てのシステムは、脊髄反射の出力に、継続的に関与する。そして、相対的な興奮・統合の程度に応じて、固有の機能を作り出す。灰白質の介在システムは、乏シナプスと固有脊髄ネットワークを支配し、それらの基本的構成を修正し、さらに、「後発射(after discharges)」と非機能的運動(「スパズム」と呼ぶ)を生じている可能性がある。また、腰髄が25-50Hzの規則的で一定の刺激によって起動すると、腰部の介在ネットワークは自動歩行のような活動を生成する。このように、完全SCIモデルにおいては、反射活動の運動コントロールは存在し、姿勢と意志的な活動は存在しない。反射活動の運動コントロールの特徴は、脊髄反射活動を引き出す方法(すなわち単あるいは規則的反復刺激)による。
不完全SCIモデル:
不完全SCI患者における脳運動コントロール機構は、残存する脳からの下行システムと脊髄ネットワーク内の統合という側面に依存する。筆者らは、不完全SCI患者の運動コントロールが、脳と脊髄の新しい構造関係の確立から生じると考えている。
障害された脊髄機能の治療:外傷性急性完全SCI患者の10~20%は、多少の役立つ機能を回復する。しかし、最近の出版物において、外傷性SCI後、歩行能力を回復する人は、15~45%の範囲であると述べている。また、Burkeとその同僚は、SCI患者352名の入院期間の治療結果の分析を報告した。その結果、37%の患者は歩行することができなかった。24%は歩行することができたが、車椅子を使用した。そして、39%は機能的な歩行を獲得した。
この総説の最後の部分で、筆者は障害された脊髄機能に利用できる治療法を概説している。
私見:
ヒトの腰部移動パターン発生器(LLPG)が存在する証拠について述べられている。
誠愛病院リハビリテーション部 理学療法科 山下小百合