文献抄録一覧
Pain in Children with Cerebral Palsy: Implications for Pediatric Physical Therapy
Pain in Children with Cerebral Palsy: Implications for Pediatric Physical Therapy (脳性麻痺児の疼痛と小児理学療法への提言)
Mary Swiggum,Merry Lynne Hamilton,Peggy Gleeson,Toni Roddey
Pediatric Physical Therapy 2010;22:86-92
導入:
CP児は日々多くの疼痛を経験している。中でもPT中の疼痛はQOLにも影響しているとの報告があるが、その研究は少ない。ここではPT中の疼痛の評価とその管理について文献のレビューを行う。
疼痛の定義:
国際疼痛学会による定義は「実際の組織への損傷あるいはそれを思わせるような、不快な感覚と感情的な経験」である。理学療法ガイドでは「ストレスや不快感を引き起こす侵害刺激の感覚」と定義している。どちらの定義でも、疼痛は主観的な経験である。長期間連続して痛みに曝されると、痛覚過敏やアロディニア(異痛症)が生じる。年齢や性別、環境その他諸々の条件によって疼痛の感じ方は変化する。
CP児の疼痛の原因:
McKearnanの分類によれば、疼痛の原因は外科的、手続き的、胃腸の、整形外科的、神経筋の、そしてリハビリの6つである。痛みの定義次第で、その心理的な意義付けも変化する。前二つはCP児だけのものではないので、ここでは後の4つについて検討する。
胃腸が原因の痛み:
脳性麻痺児の胃腸の問題は、しばしば嚥下障害や食道炎、胃炎、胃食道逆流、経管栄養、便秘、腸潰瘍と関連している。Del Giudiceらの報告によれば、58人のCP児のうち、32%が胃食道逆流を患っていたが、それ以外でも92%の児が胃腸に痛みがあった。胃腸の障害は食事の時間を困難にさせ、姿勢の異常も引き起こす。
整形外科的な原因の痛み:
変形はしばしば慢性的な痛みの原因となる。関節周囲筋の強縮や不良姿勢が続くと関節炎が生じる。痛みの原因には、股関節の亜脱臼や偏倚、膝蓋骨高位、尖足、膝や足関節の外反変形、頭骨の脱臼や亜脱臼、軟骨の変性、側彎、骨盤の歪み、後彎、前彎そして関節拘縮がある。
神経筋が原因の痛み:
痙性と痛みの関係はまだよくわかっていないが、しばしば痙性は慢性的な痛みを引き起こす。また、変形や神経の挟みこみ、ミエロパシーの原因にもなる。
リハビリが原因の痛み:
Kibeleの報告では、CPの成人にとって子供時代の最も嫌な思い出の一つが、PT中のストレッチや装具療法による痛みである。Haddenらによる両親調査では、CP児にとって最も痛みを伴う活動はストレッチだという。他にも立位保持や、介助歩行、介助座位、装具の装着時の痛みが報告されているが、ストレッチが最も痛いと評価されている。McKearnanの調査では95人のCPの若者のうち、58%がPTやOT中に痛みがあると答え、53%がホームプログラム中に痛みがあるとしている。
方法論:
1998年一月から2008年6月までの文献を調査した。
疼痛の評価:
評価方法には自己報告型と、生理学的評価、行動学的評価、そして苦痛の評価の三つがある。
自己報告型はもっとも一般的であるが、von Baeyerがその限界を提示している。(1)対象者に一定以上の理解力と言語能力が必要、(2)理解が足りないと、子供が回答を作ってしまう可能性がある、(3)五歳以下の子供は段階付けができず両極端な答え方をする、(4)格付けの結果を子供がどう受け止めるかによって答えが影響される。評価法の適応を表1に示す。表2は評価方法のガイドラインである。
行動学的評価は表情や身体の動きで評価するものである(表3)。最近では、コミュニケーションが取れないレベルの児にも適応可能な評価スケールが開発されており、その中でもINRSやPPPは両親が主導する評価である(表4)。
生理学的評価は、心拍数や血圧など、生体反応を測定する。この評価を単独で用いるのは少し問題がある。(1)痛み以外のストレスに対しても生理的な反応が生じる。(2)期間が長くなると生理的な反応は順応してしまう、(3)年齢や服薬状況、健康状態、環境などによって影響される(表5)。また、Breauらによれば、健常児とCP児とでは生理学的な反応に違いがあるとされている。
社会心理学的な疼痛管理技術:社会心理学的な疼痛管理は、認知行動療法と社会環境的介入の二つに分けられる。その方法は子供の年齢や、認知、情動、コミュニケーション能力の発達の度合いによって異なる。社会心理学的な疼痛管理の研究対象は、その多くが急性あるいは手続き上の痛みである。慢性的な頭痛や腹痛を扱ったものもいくつかはある(表6)。
社会心理学的な介入:
認知行動療法は、コーピングと疼痛に対する心構えや対処法の発達を促進する。慢性的な頭痛や腹痛、注射の痛みなどに効果があると正常児に対する研究で証明されている。注意をそらすことも、子供の疼痛や苦痛を和らげる為には有効である。記憶の変容も、認知行動療法の重要な一要素である。苦痛の体験も周囲からの働きかけによって、その苦痛が少なくなる。PT実施中のCP児に対して疼痛の軽減やコーピングの促進を試みた研究は見つからなかった。
社会環境的な介入:CP児の疼痛と社会環境については、Millerらが、脊髄後根切除術後のCP児に対し、治療中の理学療法士の振るまいが与える影響について調査していた。コーピングやコーピングを促すような関わり方をすることで、子供の苦痛は軽減される。
総括:
CP児は様々な要因の痛みにさらされている。急性疼痛や手続き上の痛みの研究は多いが、PT等のより非侵襲的な介入についての研究は少ない。社会心理学的な疼痛管理手法はケアギバーのストレスも軽減できそうである。術後のPT介入に、こうしたコーピングが役立つという報告もある。CP児と正常に発達した児とでは疼痛評価や管理にギャップがあるが、PTはこのギャップを埋める研究に協力する事が出来るだろう。
PT治療、教育、研究への提言:
治療:整形外科領域に関わるPTはCP児の行動学的な疼痛の評価について知見を深めるべきである。どのような介入が苦痛をもたらしているかを明らかにし、その要因を分析する必要がある。PT中に疼痛の評価を取り入れ、その信頼度を上げていかなくてはならない。INRSやPPPは大いに役立つだろう。社会心理学的な介入が疼痛を和らげるとの報告も出ている。PTは治療や自主練習にコーピングを上手く取り入れ、より苦痛の少ない介入と家族への指導を行っていくべきである。
研究:疼痛の原因や評価、管理に関して、CP児に対する研究は少ない。なかでもPT介入中の痛みについては殆ど知られていない。研究の領域としては(1)痛みそのものに対する、セラピストの受け取り方と、本人やケアギバーの受け取り方との比較、(2)痛みに対するCP児の反応や気づきに影響を与えるような、理学療法士の性格や経験、考え方をはっきりさせること、(3)疼痛を管理する為に、介入するPTが使用する評価尺度についての調査、(4)疼痛評価尺度の精神側定的要素の調査、などが考えられる。
結論:PTはCP児や家族と密接な関わりを持つので、疼痛の管理に関しても独特な位置にいる。PTは痛みについてもっと研究し、家族への影響や、今後への影響についてももっと知るべきである。この分野の研究は、より思いやりがあって、効率的で、エビデンスに基づいたPTを提供する為に必要である。