上級講習会報告(5)デモ・実技編
上級講習会報告(5)デモ・実技編
成人片麻痺上級講習会報告 2011年3月
講師:新保松雄・大槻利夫
会場:天草リハビリテーション病院
報告者:順天堂大学医学部附属順天堂医院 作業療法士 阿瀬寛幸,
刈谷豊田総合病院高浜分院 理学療法士 星野高志,
山梨リハビリテーション病院 理学療法士 坂本和則
文責:新保松雄・大槻利夫
デモンストレーション
デモンストレーションは、常に治療後に受講生がグループ毎にClinical Reasoning(臨床推論)をディスカッションした後、全体で発表しさらに意見交換を重ねた。初日には30分時間が用意され、それでも間に合わなかったが、回を重ねるごとに時間は短縮し、10分程度でディスカッションが可能となった。ワークショップも同様の方法で行われた。
Clinical Reasoningは、システムセオリーからの推論だけでなく、発症前後のヒストリーや病棟での生活環境、普段多くとっている姿勢、退院後に必要とされる機能等を含め、何を変えるべきかを考察した。また、1回目のセラピー終了後には、病棟で行える課題を本人と確認し、2回目のセラピー開始時に治療によるキャリーオーバーや、何を学習し何が変化したのかを確認した。
全体でのディスカッションでは、インストラクターの先生方もそれぞれ観察項目が違う事があったが、それを集約するのではなく、そのプロセスを重視する事により、セラピーに反映させられる事が重要である事を改めて認識した。同時に、普段何気なく使用してしまっている言葉の背景を考えながら使用する事により、自分のセラピーを顧みて、より効率の良いセラピーに結び付けられる事が分かった。
実技
1)外転筋のFacilitation
股関節の外転筋は片脚立位や非麻痺側下肢からのstepを行うために重要となる。前脛骨筋の過緊張により小指外転筋や腓骨筋が活動しにくくなり、結果的に外転筋やcoreの活動を阻害するケースが多い。足指を伸展位に保ったまま(長母指伸筋にtensionをかけないように)、足関節の底屈・外反方向へ誘導しながら前傾骨筋を長さを取り踵部の内側に支持面を作る(モデルでは、踵骨を把持しながらのアライメント修正しながら、距腿関節に動きを入れると下腿三頭筋が活動する)。さらに、踵部から下腿三頭筋(主に、腓腹筋内側頭)の長さを取りながら、足関節の背屈・外反方向へ刺激を入れ、股関節まで反応が波及した状態で外転運動を誘導する(繰り返す)ことで外転筋を促通する。
2)CPGの駆動
1)と同様の手順で足部(末梢)からの感覚情報を提供することでschema(皮質)に上がり易くなり、そのことがAPA’sを活動させ易くすることを期待する。下肢のplacingの中で、特にswing phaseを意識して足関節背屈位での膝関節のコントロールを促す。下腿三頭筋(モデルでは、特に腓腹筋内側頭)の遠心性コントロールが可能となりheel contactすることで前庭系システムにスイッチを入れ、CPG walkingを駆動させる条件につながる。
3)ブリッジ
2)と同様の手順から両膝立て位へ移行する。モデルの場合、下肢の外旋位が強い為、骨軸(大腿骨-臼蓋)に対して股関節周囲筋(内転筋、TFLなど)をモビライズする準備を行った。
セラピストの左手母指にて中殿筋、他の4指にて腹横筋を刺激してcoreの働きを促す。coreの活動が高まると仙骨が少し持ち上がり、内側ハムストリングが触知できるようになるので、さらにセラピストの両手をパックするようにしながら内側ハムストリングから仙骨を持ち上げるインフォーメーションを与える。モデルの場合、内転筋での代償が強い為に、セラピストの右手で内転筋や内側ハムストリングの位置アライメントを修正しながら、外転筋への刺激を強調することでselective pelvisが可能となった。
また、臀部を下ろす際には、脊柱の上部から椎体を一本一本下ろしていくイメージで臀部を下ろすことで、脊柱のselective movementと多裂筋のfacilitationにつなげる。
4)prone standing
3)で得られたcoreの活動を維持したまま、起き上がり動作から立ち上がり動作を誘導し、prone standingを行うpositionとなる。モデルは下肢の外旋位となるために、ハムストリングや下腿三頭筋の筋緊張を評価しながら足部のアライメントを修正し、下肢がchainになれる準備をおこなった。
セラピストはCKP付近をkey pointに立位バランスの評価(呼吸パターンとsway、stability limitなど)を行いながら、de weighと抗重力伸展活動を促す。coreの活動が得られたら、胸郭をletting goさせる。モデルでは、右胸郭がcollapseし易い為に、その部分でのstabilityの保障と図では分かりづらいが、両側の広背筋の遠心性コントロールを意識して、左右へのrotationを加えながら従重力コントロールを促した。
prone standingにて肩甲帯の評価・介入後、広背筋をkey pointにBOSへつなげることでvertical orientation(モデルでは胸椎の伸展)を意識しながら立位へ戻る。
5)上肢への介入
両手をテーブル上に接触した状態(CHOR)から、両側のscapla settingを行う(下角-坐骨-踵のラインが一致するように心がけた)。次に、上腕三頭筋や三角筋に対して働きかけ、筋アライメントや上腕骨頭から外旋コントロールを促した(モデルでは前方突出が強い)。さらに、両上肢(左上肢は非麻痺側想定)を水平内・外転運行う中で、上腕三頭筋・三角筋が協調性を促通した。
しかし、水平外転時にpectoralis controlが不十分で腰椎の前弯代償する様子が見られた為に、key pointを変え、殿筋からcore stabilityを保ちながらpectoralis controlを促した。さらに、肩甲骨内転と胸椎の伸展を促すことで、両側肩甲骨の内側縁同士がkissすることが可能となった。
6)下肢への介入
5)で得られた胸椎の伸展を保つ為に、ボバーステーブルの上に椅子を設置し、その上で両手を接触(CHOR)させる。この際に、椅子はV字状に置き、肩関節が90度以上屈曲しないように注意する(scapla plane上をkeepするのが望ましい)。
上肢・体幹・下肢をconnectionする広背筋への介入を行う。特に、middle partへの介入によりtrunk controlを促す。
その後、殿筋やハムストリングの評価しながらtoneを調整し、ハムストリング(モデルは特に内側ハムストリング)の起始部をモールディングしながら、骨盤の平衡を保ち後方へのstepを行う。この際に、内側ハムストリング~内側腓腹筋の長さを十分に取れるように配慮した。さらに、腓腹筋の評価を行いながら、toe standまでの過程の中で、足関節戦略でのbalance controlが可能にするために、腓腹筋とヒラメ筋の協調性をfacilitationする。特に、ヒラメ筋が歩行時のheel contactの際に、遠心性収縮が可能となることで前庭系システムが駆動するために、腓腹筋のkeepしたまま踵を下ろすことでヒラメ筋の遠心性コントロールに働きかけた。この際に、モデルに対しては、「踵で床を探してください」とorderし、注意の向け方を外部へ向かわせる事の重要性を述べられていた。
最後に、講習会中に提示頂いた実技内容は筆者にとってはとても難しく、すべてを理解し十分にお伝えすることはできなかった。その為、提示頂いた内容をそのままお伝えすることよりも、モデル(対象者)の評価(クリニカルリーズニング)を心がけながらまとめさせて頂きました。そういった視点で、参考にして頂ければ幸いです。
おわりに
講習会のプログラムは、ディスカッションやプラクティスの時間が多く組まれており、講師の先生方始め、天草リハビリテーション病院の事務局、スタッフの方々の多大なるご配慮により受講生全員がベストパフォーマンスを発揮して、5日間のコースを終える事ができた。各担当症例も前述の通り、改善を認め、患者の運動遂行や運動学習を考えるためには、療法士自身のパフォーマンスをいかに上げるか、そのために知識をいかにスキルに変え、自分の治療に用いる事ができるかが重要であると感じた。
参考・引用文献
1) Sue R, Linzi M, Mary L-E:Bobath Concept. WILEY-BLACKWELL, pp64-82, 2009.
2) J. Doyon et al.:Contributions of the basal ganglia and functionally related brain structures to motor learning. Behavioural Brain Research.pp61–75,2009
3) Kiresuk, Sherman RE.:Goal attainment scaling. Community Mental Health Journal. pp443-453,1968
4) Gordon et al.:Goal attainment scaling as a measure of clinically important change in nursing home patients. Age and ageing. pp275-281, 1999
5) Lynne Turner-Stokes, Goal attainment scaling(GAS) in rehabilitation: a practical guide. Clinical Rehabilitation. pp362-370, 2009
6) Mary L ら(吉川ひろみ翻訳):COPM カナダ作業遂行測定 第4版 大学教育出版. 2006